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クチケル

クチケル

泊 昭雄(フォトグラファー)

写真家 泊昭雄が「クチケル」というコンセプトで、ガラスの被写体だけを撮りおろしたアーティストブック。朽ちるの現在進行系だという独特の世界に、宮沢賢治、岩本素白、寺田寅彦、柳宗悦、リルケ、開高健などの言葉を引用し、書き下ろしの「ものたちの誰彼」を収録。表紙には医療用ガーゼを使用し、壊れものを包み込むようなやわらかな手ざわりの本ができました。

本の情報

書名
クチケル
著者
泊 昭雄
企画構成
櫛田 理
編集
乙部恵磨
デザイン
太田江理子
写真
泊 昭雄
翻訳
まいるす・ゑびす
協力
辻 和美、内田鋼一、高橋酒造株式会社
販売協力
無印良品 MUJI BOOKS
印刷製本
TOPPANクロレ株式会社
ISBN
978-4-910462-233
刊行日
2024年2月1日
発行元
BON BOOK(TOPPANクロレ株式会社)
定価
¥3,000-(税込)

泊昭雄 / L.A.Tomari.

インタビュー
泊さんに聞きました

フォトアートマガジン「hinism」やご自身の写真集など、泊さんはこれまでたくさん本をつくられていますが、『クチケル』は泊さんにとってどんな一冊になりましたか?

泊さん―――この本には、これまで撮影してきたガラスの写真と、今回新しく撮りおろした写真の両方が収まりました。写真家としての思いをひとつ、やり遂げることができたと思うし、次へのステップだと感じています。

被写体はちょっと欠けたような、古ぼけたようなものばかり。約30点の「モノ」には、どんな共通点があるのでしょう。

泊さん―――これまでスタイリストとして、写真家として、たくさんのモノと向き合って来たけれど、どんな「モノ」でもいつかは去っていきます。中でも、ガラスの去り際がもっとも愛おしいのではないかな、と思うのです。「あとがき」でも書きましたが、ガラスは少しでも欠けると、その鋭く切り立つ傷のせいで、誰からも触れてもらえなくなってしまうところがある。生まれつきこわれやすいという危うさに、強く感情が動かされます。

全国津々浦々、くちけたガラスを探していただき、たくさん撮り下ろしていただきました。特に印象に残っている「ガラス」はどれですか?

泊さん―――やはり、ラムネ瓶かな。この頃のプロダクトデザインは優雅さも感じる。なにより、なつかしい。子どもの頃、お小遣いをもらっては駄菓子屋に買いに行ったものです。モノを通してしあわせな記憶を辿れることは幸せなことだと思う。

ガラスを撮影する面白さはどこにありますか?

泊さん―――いちばんは、ガラスの佇まいですね。有機物がガラスに入り込む瞬間が好きです。

今回は特装版もできました。ペーパーシリンダー(紙管)の中に本をまるめて封じ込めるのは泊さんのアイディアでしたね。

泊さん―――ぼくはお酒を飲みますが、おいしいお酒は、かならずと言っていいほど筒に入っている。せっかく特装版を作るなら、筒に入れてみたいと思ったんです。お酒に「何年もの」というのがあるように、時間をかけて余計おいしくなる、みたいなことがこの本でも起こってほしいな、と願っています。

銀座のATELIER MUJIでの展覧会もかろやかな空気感が印象的でした。写真と被写体のオブジェが同居する展示はいかがでしたか?

泊さん―――ガラスという平面と立面が交わりあえてよい景色だった、かな。

被写体となったガラスたちは、この本がなければ、捨てられていたか、ずっと戸棚の奥に仕舞われていたものたちのように感じます。いまの時代に目を向けるべき「うつくしさ」とは何でしょうか。

泊さん―――陶器は欠けても金継ぎや接着剤、テープなんかで修理しながら使い続けることができる。でもガラスは一度割れてしまったらほとんど直すことができない。ただ、ガラスの経年劣化は残せる。モノに映る時の流れがこの上なくうつくしいと思っています。

若い読者へ、ひと言メッセージをお願いします。

泊さん―――ものは朽ちてからが美しい。

著者プロフィール

泊 昭雄

フォトグラファー。1955年 鹿児島生まれ。インテリアスタイリストを経て、1993年 フォトグラファーとして独立。2001年ギャラリーWALL 南青山設立に参加。2004年 季刊誌「hinism」を創刊。2007年 モノクロマガジン「nagare」、2018年「hinism vol.10」(AXIS社)、2020年「hinism vol.11」(wall社) 発刊。広告写真、写真集などを手掛け幅広く活躍し現在に至る。