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nui project

nui project

しょうぶ学園(社会福祉法人)

1992年に始動したnui project(ヌイ・プロジェクト)は、「縫いたいように縫ってごらん」という職員の気づきから始まりました。好きな材料と好きな居場所で好きなように縫う。下絵のない世界。鹿児島の障がい者支援施設で生まれた短編ドキュメンタリーのような1冊です。

本の情報

書名
nui project
著者
しょうぶ学園
企画編集
櫛田 理
編集
渡辺敬子
制作
株式会社EDITHON
デザイン
佐伯亮介
造本設計
田中義久
販売協力
無印良品 MUJIBOOKS
印刷製本
図書印刷株式会社
ISBN
978-4-910462-00-4
定価
1980円(本体1800円+税)
刊行日
2021年3月1日 初版第1版発行
発行元
図書印刷株式会社 BONBOOK

インタビュー
しょうぶ学園副施設長の
福森順子さんに聞きました

nui projectで驚いたことは何ですか?

坂元郁代さんという方の作品を目にしたとき、あれはびっくりしました。書籍のあとがき(「nui project――運針のかたち」)でも触れていますが、糸のかたまりが布から飛び出したような作品で、糸の厚みで2−3センチにもなっています。「よくここまで縫ったな」というのが最初の感想で、あっけにとられました。一般的な刺繍では完成図を決めた時点で「どこまでやるか」もある程度決まりますが、この作品にはそれがまったくない。「ここまでやる?」「ここまで縫うの?」とびっくりでした。

ヌイ・プロジェクトのみなさん。協力しあって糸巻き中?

作品以外に驚いたことはありますか?

初めて針と糸を手にした人が、平然と刺していくのを見たときです。もちろん周りを見ながらそうしている面もあるでしょうが、ためらうことなく「ブスッ」といくんです。施設の利用者さんには障がいの重い方、軽い方、いろんな方がいますが、障がいの重い方のほうが躊躇なく自由刺繍の世界に入っていけるようです。「この縫い方はどこから生まれてきたんだろう?」「どこかで見てきたんだろうか?」と驚かされます。それぞれに独自の縫い方があって、おもしろいですよ。

園内のサインはすべて利用者さんの作品。

国内外には積極的に発信してきたのですか?

世間にアピールするための活動というのは、とくにやってきていないんです。雑誌「装苑」の公募展で大賞を受賞した(2005年)のも、たまたま一人のスタッフが「翁長さんの作品を応募してみたい」と園長に相談し、園長が「いいよ」と言って、そのスタッフがポートフォリオも全部つくって応募してみたら、大賞を獲っちゃった。それが皆川明さん(ミナ ペルホネン)の目に留まるきっかけとなったわけですが、当時はむしろ受賞したことに戸惑ったくらいです。

利用者さんはスタッフのミシンワークが加わることを
嫌がらないですか?

それが全然ないんです。縫っている途中に「見せて」と言うと、ものすごく嫌がる方はいます。でも、完成したものについてはまったく執着しない。もちろん「これは自分が縫ったものだ」という思いはあっても、そこにどんなミシンステッチが加わっても構わない、という態度です。利用者さんにとっては「縫う」こと自体が大切なので、できあがったものに対してはあっさりしているんです。その「いさぎよさ」はうらやましいと感じるほどです。

商品の売上や人気アイテムについて教えてください。

売上は、材料費などの経費を差し引いて、作品をつくったアーティストと学園で折半しています。ファンが多いアーティストは学園内で「巨匠」と呼ばれています。商品としては、nui projectの場合はふつうの刺繍っぽいものはあまり売れないですね。自由で、突拍子もなくて、糸の動き、針の動きが想像もつかないようなものが人気があります。利用者さんの手縫いにスタッフのミシンワークが反応して一つの作品ができあがるように、買う人の感性もそこに反応するんだと思います。

ここまでのプロジェクトになるには苦労もあったのでは?

たしかに30年前は「まっすぐに縫う」ことを利用者さんに求めていました。でもそれは、そういう時代でもあったんです。障がいがある人は保護する対象で、一般社会で苦労しないように指導・訓練するのが良しとされていたんです。福祉のあり方に限った話ではなく、下着のたたみ方や布団のたたみ方は、ふつうの学校教育の現場でも見られました。しょうぶ学園はもともと「ものづくり」志向は強かったのですが、まっすぐに縫えない人に「縫いたいように縫ってごらん」と言い、布から糸のかたまりが飛び出したあの作品ができたときから、nui projectは今につながるかたちになったのだと思います。

緑豊かな園内には、人だけでなく、ロバもいる。

にぎやかなアートで全面を彩られた学園のバス。

著者プロフィール

しょうぶ学園

しょうぶ・がくえん 鹿児島市にある障がい者支援施設。樹齢250年のたぶの木が見守る自然環境のなか、染め織りからスタートした工芸活動は、木工・陶芸・和紙と少しずつアトリエを増やしてきた。2006年に増改築したキャンパスにはベーカリーや蕎麦屋も加わり、ギャラリーやホールを備えた新施設「アムアの森」も誕生。その幅広い表現活動は「SHOBU STYLE」として親しまれ、工芸作品はアートとしても国内外で高く評価されている。近年は、音のパフォーマンス「otto&orabu」も盛んで、利用者と職員が織りなす独自のスタイルは、NHKの番組「ハートネットTV」で特集されるなど、注目を集めている。