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うたのほん

うたのほん

高野文子(漫画家)

代表作『絶対安全剃刀』をはじめ、『おともだち』『棒がいっぽん』『黄色い本』など、派手な人物や出来事の不在、不思議な世界との行き来、あとを引く読後感が読者を惹きつけてきました。本書は高野さんがiPadでつくった初の作品です。じつは歌うことが好きだという高野さん自身の日常を素材にしています。

本の情報

書名
うたのほん
著者
高野文子
企画編集
櫛田 理
制作
株式会社EDITHON
デザイン
佐伯亮介
造本設計
田中義久
販売協力
無印良品 MUJIBOOKS
印刷製本
図書印刷株式会社
ISBN
978-4-910462-06-6
定価
1980円(本体1800円+税)
刊行日
2022年1月1日 初版第1版発行
発行元
図書印刷株式会社 BONBOOK

高野文子

インタビュー
高野文子さんに聞きました

収録したのは高野さんがふだん唄っている4曲だそうですね。

そうです。実際に、二槽式洗濯機の前で唄っています。童謡や民謡なんかが、つい口から出てしまうんですよ。だから、音楽好きとはちょっと違うかもしれません。わたし、音楽プレイヤーも持ってませんもん。でも、唄うのは好きです。スポーツにも似た感じを持ってて、観戦や応援に夢中になることがほとんどなくて、それより、自分で体を動かすほうが好きかな。

それ、たとえばどんなふうにですか?

自己流の体操とか。えへへ。体操しながら、自分の体に聞くんですよ。いま、どこらへんが楽しい?足かな?腕かな?背中かな?って。今回の『うたのほん』も、そうやって作りました。かなり前になりますけど、「盆踊り」を図解したことがあるんです。盆踊りはスポーツじゃないけど、どういうふうに動いてんのかな?と絵解きしたんです。

『ドミトリーともきんす』(中央公論新社)に収録されている、
『Tさんはこの夏、盆踊りがおどりたい』のことですね。

そうです。それと同じようにやってみよう、今回は「歌」でと。歌と言えば楽譜がありますから、それを取りよせて眺めてみました。音符が左から右へ流れてますよね。渡り鳥の群れか、小魚の群れのような、風景が浮かんできたんです。1、2、3曲と進み、4曲目にきたところで、あら?楽譜の中程に♯(シャープ)記号がついているじゃありませんか。

4曲目は「トレロカモミロ」ですね。楽譜が今ここにありますが
確かに「うし」の「し」の横にシャープがあって
「おとこ」の「と」にもついてる。続々とありますね。

そうなんです。困りました。絵にしにくい。この歌は、音痴のわたしでも苦労なく唄えてたので、これほど複雑な曲とは思ってなかったんですよ。シャープとは違う記号もあるでしょう。なんだろこれ?フラットでもないし、ナチュラルって言うのか。こんな具合で、初めて知る名前でした。そこで、ボーカロイドの楽譜では、どう表してるのかなと思い、ネットで確かめてみました。ボーカロイドは半音も描けるようになってました。

ピアノロールの表記方法ですね。

そうです。ただ、ピアノロールって、急勾配な階段に見えちゃって、ひざを高く上げなくちゃのぼれない階段はやだな、という気持ちになる。唄いたくはならない。やっぱり、自然に声を出したくなるのは、五線譜のほうなんですよね。

何百年も使われてきた楽譜って、そういうことなのかもしれません。

悩んだ結果、五線譜とピアノロールの都合の良いところをとり、シャープは書き込まないことにしました。ページを開いた人、各自が気持ちの向くように、歌ってくれれば良いじゃないですか。

ずいぶんあきらめが早くないですか?

みなさん。わたしの描いたのを、楽譜と思って唄うと変ですよ〜。フニャっとへんな「トレロカモミロ」ですよ〜。ですから、この『うたのほん』は、高野の日記みたいなものなのです。他人にとっては、栄養価の低い本かもね。

えーっ!せっかく時間かけて描いたのにですか!?

この本、“日々のくらしを大切に”の「無印良品」のお店に並ぶんでしょ。日々のくらしに、高栄養は野暮ですよ。体に良くありません。薄味にお料理しときました〜。

わかりました。では、そのへんはあきらめるとして、
話は変わりますが、窓の外にトリがいます。あれはカラスですか?

ええ、あるいはヒヨドリ。そのあたりと思ってください。だれかに聴かせたいと思って唄っているわけじゃないんだけど、洗濯機の渦見ながら声出してても、やはりつまんないです。窓を少し開けて唄えば、カラスくらいは聴いてくれるかもしれないでしょ。

そういえば「四季の雨」は窓の外の景色や音を唄っていますね。

そうなんです。窓を開けてみたくなる歌なんです。みなさんもぜひ、おうちでお試しくださいな。

一番最初に届いた画像。色調試作です。
黒地に青の描画は、紙原稿では怖くて描けないとのこと。
デジタルなら、描いたあとに、青の明度を上げることができますね。

全ページの構成が送られてきました。
紙片が畳の上に並べられています。21見開き。

モック本が届きました。縦6㎝、横4㎝の豆本です。

彩色が始まりました。夜が明けていく様子を描きたいので、
21枚を全部くっつけて並べたそうです。ぎゅーっと詰まってます。

断ち切り部分を塗り足したものが届き始めました。
21通のメールを受け取りました。入稿直前。

一番最後に表紙を決めます。高野さん使用のiPad画面。

手書きの“たかのフォント”。ひらがなが好きだそうです。

デジタル絵に冷たい印象を持つ人は多いけど、そうとも言えませんよね、とのこと。
白地に薄いベージュ色がきれいだなあ、と高野さん指差す。
ちなみにこのベージュは茶色15パーセントだそうです。

完成品を手に持つ高野さん。黄色いキナコをまぶしたような本が出ました。

著者プロフィール

高野文子

たかの・ふみこ 漫画家、イラストレーター。1957年新潟県生まれ。高校卒業後に上京し、看護学校に通う。看護師をしながら1979年に「絶対安全剃刀」で漫画家デビュー。代表的な作品集に、『絶対安全剃刀』(1982年)、『おともだち』(1983年)、『るきさん』(1993年)、『黄色い本』(2002年)、『ドミトリーともきんす』(2014年)がある。